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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)34号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の特許請求の範囲の記載及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、本願発明の要旨の認定を誤つた結果、本願発明と引用例記載の発明との対比において両者の構成及び作用効果上の差異を看過し、ひいて、本願発明をもつて引用例記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものとの誤つた結論を導いたものである旨主張するところ、以下に説示するとおり、原告の右主張は、理由があるものというべきである。

まず、本願発明の特許請求の範囲の記載のうち「上記検出装置の一つに応答して上記スイツチを動作させる制御手段とを有して、上記制御手段が、上記検出装置のいずれかからの電圧の所定値に応答して上記スイツチを動作させる電圧判別装置を備える」構成に関し、被告は、制御手段が「検出装置の一つにのみ応答」する構成をも含む旨主張し、原告は、右被告主張の場合を含まない旨主張するから、この点をどのように解すべきか検討するに、前記特許請求の範囲の記載に成立に争いのない甲第一号証(本件公報)を総合すると、(1)本願発明は、バツテリー充電装置、特に、バツテリー内部の状態を感知する装置を備えたバツテリー充電装置に関するものであるところ、ニツケルカドミウム電池などのバツテリーを急速に充電すると、過電圧と熱状態に関係する問題、すなわち、所定電圧以上に充電すると、許容値以上のガスが発生し、セパレータやプレートを破損したり、あるいはそれ自身の残留ガス圧で電池が破壊することがあり、また、過熱は、ガス発生率を大きくする等の問題があつたこと、(2)従来、この問題に対処するため、温度感知充電回路、電圧感知充電回路及び温度補償電圧感知回路などが用いられてきたが、ほとんどの例において、バツテリーの損傷につながる問題を満足に解決することができず、このように電圧及び温度の問題の両者を電圧感知で解決することが困難であるのは、少なくとも一つには、バツテリー充電装置の動作が周囲の状態により広い範囲にわたつて変化し電圧感知が困難になるということ、例えば、予想し得るすべての動作状態に対して電圧感知回路に十分な温度補償をすることが困難であるという事情に原因があり、温度補償をした電圧感知バツテリー充電装置であつても、バツテリーが所定の電圧レベルに達する前に、高い周囲温度や繰り返される充電操作が原因となつて、バツテリーを危険な熱レベルにさらすことがあり、逆に、バツテリー充電装置は、非常に冷たい雰囲気にさらされると、制御装置の温度のみに依存して、所定の温度停止点に到達することなく、過電圧充電状態を続けるということが生じること、(3)本願発明は、右の課題を解決するため、共に作用し合う温度補償装置と電圧感知装置とを有する充電器を提供することを目的として、特許請求の範囲の記載のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものであることを認めることができ、右認定の本願発明の目的及び課題、本願発明の明細書中の実施例第2図ないし第5図のものが電圧検出装置と温度検出装置の両方に応答してスイツチを動作させる制御手段を有するものであること(この点は、被告の認めるところである。)、同実施例第6図のものも後記認定のとおり他の実施例と同様の制御手段を有すること、並びに本願発明の特許請求の範囲の記載のうち「上記検出装置」の文言が「電圧検出装置」及び「温度検出装置」を指称することが明らかで、右二つの「検出装置の一つに応答して」の文言の趣旨が、これに続く、右二つの「検出装置のいずれかからの電圧の所定値に応答して」の文言に徴し、右二つの「検出装置のいずれか一つに応答して」と解され、右二つの「検出装置の一つのみに応答して」と解し難いことを総合すると、本願発明の特許請求の範囲のうち上記構成は、原告主張のとおりの構成のものと解すべきである。この点に関し、被告は、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項記載の実施例第6図のものは、制御手段に電圧検出装置のみから検出出力が供給されており、右実施例からみて、本願発明は右の回路構成のものを含むものである旨主張する。しかし、前掲甲第一号証によれば、第6図のものの構成及び動作は、(1)バツテリー210には、サーモスタツト250が直列に接続されていて、SCR222による半波整流の充電電流が高速で供給されるようになつている、(2)バツテリー210の電圧は、抵抗240と可変抵抗242とで構成されている分圧器によつて検出されるようになつており、可変抵抗242の可変接触片242aがSCR230のゲート230aに接続され、SCR230はSCR222のゲート222aとバツテリー210の負端子間に接続されている(以下、接点280は閉じているものとする。)、(3)バツテリー210の充電電圧が上昇して所定値となり、可変抵抗242の可変接触片242aの電圧が所定値になると、この電圧がゲート230aによつて感知されてSCR230が導通し、SCR222のゲート222aをバツテリー210の負端子に結合してSCR222を非導通にし、ダイオード224、抵抗218を通してバツテリー210を小電流で低速充電するものであつて、抵抗240と可変接触片242aを含む可変抵抗242とが充電電圧を検出する「電圧検出装置」に、SCR222が高速充電回路を開閉する「スイツチ」に、SCR230がそのゲート230aに加わる電圧を判別する機能(「電圧判別装置」)を備え、「スイツチ」であるSCR222の開閉動作を制御する「制御手段」にそれぞれ相当する、(4)高速充電中(SCR222が導通中)に、温度に応答して(バツテリー210の温度が上昇して所定値になつたとき)サーモスタツト250の接点が開くと、高速充電が停止し、この場合には、バツテリー210の負荷が高速充電回路から外されることになるので、SCR222により整流された半波電圧が上昇し、これにより分圧器240、242の電圧が上昇するので、SCR230が導通し、SCR222が非導通となり、したがつて、バツテリー210の温度が低下し、サーモスタツト250の接点が閉じても、SCR222が非導通であつて、バツテリー210が再び高速充電されることはないから、右のようにSCR222が非導通になることによつて、高速充電から低速充電への切替えが完了するものであり、これを換言すると、サーモスタツト250の接点が閉じれば、バツテリー210は低速充電されることになるものであり(なお、SCR222を非導通になるように制御したSCR230のアノード・カソード間には、ダイオード224と抵抗(抵抗218の上部の符号が附されていない抵抗)を介して電源電圧が、あるいはダイオード260、抵抗218及び抵抗(右同)を介してバツテリー210の電圧が印加され、また、SCR230のゲート230aにも、分圧器240、242を介して電源電圧あるいはバツテリー210の電圧が印加されることにより、SCR230の導通が維持されるから、SCR222は非導通のままである。)、この場合に、分圧器240、242の電圧の上昇は、バツテリー210の充電電圧の上昇に起因するものではなく、バツテリー210の温度が所定値以上に上昇してサーモスタツト250の接点が開いたことに起因するものであるから、分圧器240、242の電圧の上昇は、バツテリー210の温度が所定値以上に上昇したことを示すものであり、したがつて、サーモスタツト250及び分圧器240、242は、「温度検出装置」に相当する、(5)このように、第6図の回路において、「制御手段」に相当するSCR230は、バツテリー210の電圧を検出する「電圧検出装置」にのみ応答して「スイツチ」に相当するSCR222を動作させるだけではなく、バツテリー210の所定値以上の温度を検出する「温度検出装置」にも応答して「スイツチ」を動作させるものである、(6)分圧器240、242は、両検出装置に共用されているが、SCR230は、右のとおり、両検出装置のいずれにも応答してスイツチを動作させるものであることを認めることができるから、実施例第6図のものも、実施例第2図ないし第5図のものと同様、前段認定の本願発明の構成を備えるものであり、被告主張の構成のものとは認めることはできない。したがつて、被告の上叙主張は、採用することができない。

ところで、引用例に本件審決認定の技術内容の記載があることは、原告の認めるところであり、これによると、引用例記載のものは、再充電可能なバツテリー、充電電流源、該バツテリーのための充電回路、所定の信号に応答して該充電回路を開くパワートランジスタ、該バツテリーの電圧を検出する電圧検出装置と該バツテリ―の温度を検出する温度検出装置及び上記検出装置の一つである温度検出装置に応答してバツテリーの充電回路を開くパワートランジスタを動作させる制御手段とを有するバツテリー充電装置であるから、本願発明と引用例記載のものとを対比すると、本願発明のスイツチに対応するものが引用例記載のものではパワートランジスタになつている点でのみ相違し、他に相違点がないとした本件審決は、以上認定した点において、本願発明の要旨を誤認し、その結果、本願発明と引用例記載のものとの一致点及び相違点の認定判断を誤つたものといわざるを得ない。

以上によれば、本件審決は、本願発明の要旨の認定を誤り、その結果、引用例記載のものとの対比判断を誤り、ひいて、本願発明をもつて引用例記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものとの誤つた結論を導いたものであることは明白であり、この点において違法として取り消されるべきである。

(結語)

三 よつて、本件審決を違法としてその取消しを求める原告の本訴請求は、その余の点について判断を加えるまでもなく、理由があるから認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の特許請求の範囲の記載は左のとおりである。

少くとも一つの再充電可能な電池を持つ再充電可能なバツテリー、充電電流源、高速充電回路を有する該バツテリーのための充電回路、所定の信号に応答して該高速充電回路を開くスイツチ、該バツテリーの少くとも一つの電池の電圧を検出する電圧検出装置、該バツテリーの中にある少くとも一つの電池の温度を検出する温度検出装置、および上記検出装置の一つに応答して上記スイツチを動作させる制御手段とを有して、上記制御手段が、上記検出装置のいずれかからの電圧の所定値に応答して上記スイツチを動作させる電圧判別装置を備えることを特徴とする、バツテリー充電装置。(別紙図面参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面

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